m1315 管理人


有名な銀座の老舗の息子夫婦だとか、新宿の高級クラブのママさんだとか、1応、自他共に金持ちと認じる人ばかりである。
そういう人達から見ると、明らかに若くて、家賃のでない、マンションの管理人をやってる人間なんぞ、見下げた貧乏人に見えたのだろう。
隣人同士のいざこざ、上下階のいざこざ、トイレが詰まっても、管理人の責任だとか、やたらめったら無理難題を押し付けてくる。
下の階からの焼き肉の匂いを、あれは我が家に対するあてつけだ。なんとかしろ、と言ってくる。
とうとう女房が、初めての子を流産してしまった。勿論、住人は流産したことを知っているが、優しい言葉をかけるわけでもない。
貧乏人など子供を作る資格がない、と言わんばかりに輪をかけて自分たちの争い事を管理人に押し付けてくる。
お金があれば、心豊かに周りに温かい目、優しい言葉がかけられるものだと思ったが全く逆だ。
金持ちは、人間としての情が金に奪われてしまうものだ、としみじみ感じた。
その後、妊娠をしたので出る決心をし、アパート生活に戻った。

m1314 20歳で20億円相続?


ちなみに本家の姪たちは、20歳前だと言うのに二十億もの資産をもらい、渋谷駅近くに億ションを購入。優雅に遊び呆けているとのことだ。
ひかるの新婚生活は、女房の実家にも反対され、それこそ三畳一間、電化製品ひとつない。貧乏どん底からのスタートであった。
木造で、歩くとミシミシ音がし、トイレはポットン便所の安アパート、夫婦で共働き、やっと家賃が払えるという生活だ。
勿論ひかるは、テレビの世界で仕事をしていたが、当時は白黒放送で、給料など、1般の企業の社員に比べられない、どん底生活であった。
ボーナスが入ったら、洗濯機を買おう、その次は、冷蔵庫、テレビと、夫婦で夢を描き、必死で働いていた折、学が、自由が丘に五階建ての賃貸しマンションを建てたので、管理人をしてくれないか、との話。
家賃はただでいい、との話だったので、これ幸い飛びついた。
ただほど高くつくものはない。この管理人の仕事。とんでもない結果を生むことになる。
当時マンションという言葉は、聞き慣れない言葉で、走りだったのである。
もちろん家賃も高かったので、入居者はハイクラスの人ばかりだ。

m1313 血統犬


外国製のカマロだとかいう、わけのわからない外車を乗り回していた。
日本の車は、ドアを閉めたときの音が軽すぎる、といって、重厚なドアの音のする外車を次から次と乗り回していたのである。
親父を早くに亡くしており、母と2人の生活だ。
邸宅へ誘われていったが、屋敷の前には、外車を収納できる車庫があり、門の横には、鉄格子で囲った、立派な犬小屋だ。
ひかるの生活、犬以下だ。
この犬がまたデッカイ、3匹もおり、人間なぞひと噛みで殺しそうで、それこそ血統書付のいい犬だという。
家の中へ入ると、そこにはまた、青い眼をした、ペルシャ猫だとかなんとか言っていたが、これまた血統書付の高級な猫だというのが3匹ほど、母親が可愛がっていた。
家のなかの家具や調度品は見たこともない、皇族のお宅ではないかと思われるようなしつらえだ。
泊まっていくようにと勧められ、泊まった。そこには全く見たこともない、そのために作らせたのかと、思われるような本棚があり、そこには、とんでもない百科事典等が、びっしり収まっている。
母親は、上品な女性で、何人かのお手伝いを雇い、家の中や庭など、きれいに作り上げていた。
なんでそのように、金があるのかと聞くと、学の祖父は次男ではあったが、長男を手伝い、その昔造園業をやっていたという。
貯木のため、原っぱだった土地をかなり持っていたので、兄貴に分けてもらったとのことだ。
その土地はあれよあれよという間に値上がりし、手がつけられないほどの大金が転がり込んできたという。

m1312 怒り


ひかるも生まれて初めて他人さまに馬鹿にされ、コケにされる屈辱感は味わったことがない。
当時、沖縄生まれでパスポートを持っている。自分でも劣等感は感じていたが、それをもろに罵られると、人間の感情は火に油を注ぐようなものだ。
こんな人間、生きている価値がない・・ぶっ殺してしまえ!
それくらい憤りを感じた。
しかしふるさとで、今日もヘラで草取りに汗を流し、爪に火をともして生きる両親の事を考えると、息子が東京へ出て殺人を犯した、なんて白い目で周りから見られて生きるのは、あまりにも酷だ。
悔しくても、侮辱されても、頭を下げ続けたが、結果的に、許してもらえなかった。
彼女が、親兄弟、親戚含め、すべて縁を切る、1緒になろうと言ってくれたときは、涙が止まらなかった。
ひかるは一生、彼女を路頭に迷わす事はすまい、と心に誓って、新婚生活をスタートさせた。
新婚当時、女房の友達を含め7、8人の仲間で、同年代とあってよく飲み食いをした。
その中に1人、独身の中山学がいた。
学はとんでもない男で、十数億もの資産を持ち、自由が丘の邸宅住まいだ。

m1311 着のみ着のまま


ひかるの息子は34才、子会社、下請会社を使いこなしバリバリ働いている。
今の時代はどうだのこうだのと、親父に説教するくらいのバリバリ、毎日が充実しているようだ。
軽い男に言い聞かせる気などさらさらないが、つい経験した犬の糞物語を話してやった。
ひかるは高校卒業と同時に、周囲12キロ海抜12メータという、日本の南端の小さな島から、着のみ着のままで上京した。
昼間は必死で働き、夜学の後テレビ界へ就職した。
その時知り合った東京生まれの東京育ち、江戸っ子の彼女と出会うことができた。
結婚の約束をし、相手の親のところへ挨拶に行くと、猛反対だ。
当時、沖縄は日本国ではない。米国統治下で、パスポートを持っており、ましてやひかるの生まれ育った島など、日本の地図には載っていない、
彼女の実家は、代々手広く商売をしており、嘘かまことかは分からないが、皇族にもつながる由緒ある家だと言っていた。
そんな家柄が、ひかるみたいな見た目も格好も、田舎者。ましてや、沖縄となると、反対するのは当然だ。
座布団を投げつけられ、しまいには、塩をまかれるありさまだ。