1031 大失敗

大盛に盛られた、どんぶり飯を期待していただけに、裏切られた時の腹の立つ事、立たない事!
娘を呼びつけ、「これは、大もりではない!」と一括。
田舎ものだと馬鹿にされないぞ、だまされないぞ、という剣幕で劣等感が爆発したのです。
親切に、ツユのお代わりまでしてくれた娘は、あっけにとられ、精神異常者ではないか、という恐怖の眼差しで、奥の方へ逃げていきました。
周りの雰囲気は、皆さんの想像にお任せしましょう・・
主人が出てきたので、一言、二言文句を言いました。
日曜日の昼の混雑時、主人はケンカもできず、呆れ果てるばかり。
ひかるは、上げ底メニューで、客をだます、悪徳食堂の悪徳主人に、客を代表して文句を言ってやった、思い知らせてやったと、正義感に燃え、肩で風を切り、堂々と店を出て行きました。
「神様! この男に罪はない、単なる無知だ! 救いの手を・・・・・・・」
お店の皆さん、ごめんなさい!

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 1030 あれ~

前席の高校生だと思われる女の子が、あれ~と甲高い声を出し、椅子を軋ませ逃げ出す。
周りの客は、針でつっ突かれたかの如く、一斉に注目。
見るとテーブル上は、運悪く、ツユが前の方へ流れています。
娘が飛んできて、ツユを拭き、お客に誤り、調理場から、もう1本ツユを持ってきました。
こぼしたものと勘違いをしたのです。
さて、2本目です。
どうするか??
あまりの出来事に、多くの客も、野次馬気分で立ち上がっての見物。
前の女子高校生はすでに避難し、どうしてよいのか分からず、恥ずかしさと冷や汗。
当人は完全に、舞い上がっています。
店全体の視線を一身に受け、仕方なく、そばを一本ずつ、ツユに浸しながら食べていると、隣の客が親切に教えてくれましたが、時すでに遅し。
周りの雰囲気からして、何が何んだか食べた気がしません。
さて、次は下のご飯だぞ!
はやる気持ち、ぎこちない手つきで、すのこを取りました。
何んだ、これは!
カラッポではないか!
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 1028 つゆ壺

ツユ入れを、フタだと思い、伏せたまま、お盆の上へ置きました。
さて、その後どうやって食べるのか?
ハシでツユを確認。
そばを1本1本、ツユ壺に入れて食べるのか?
試しに1本やってみましたが、どうも具合が悪い。
腕組みをし、しばらく考えました。
どうしても、周りの視線が気になります。
過疎の村で、外食とは関係なく育ったひかる、食事作法を知らず、オロオロ上目使いに、周りを伺う様子。
自信のない人は、特に目立ちすぎます。
思案のすえ、見事な閃き。
ツユを上からかければ、その下にあるはずのご飯にも味が沁み込み、旨いだろう。
そうやって食べるんだ、と考え、思いっ切り、バサーとかけてしまったのです。
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 1027 おおもり

メニューで一番、腹いっぱいになりそうなのは、読み方からして、「大もり」でした。
注文をし、どうも、周りの視線が、興味深げに、じろじろと、ひかるを見ているのに、嫌な予感。
ほどなく「大もり」が来ました。
ひかるの考えでは、「大もり」といえば、どんぶりに、大盛に盛られた、どんぶり飯を想像していましたが、目の前に出てきたものは、意に反する物。
だけどいいや・・・
おそらく、そばの下に、ご飯がたっぷりあるだろうと、一人合点し、空腹から湧き出る食欲と、生唾を飲み込む。
さあー食べようか!
初めての食べ物、食べ方が分かりません。
大もりの下に、お盆があるのですが、隣の客には敷いてありません。
注文を運ぶお盆を忘れ、そのうち取りに来るだろうと気を使い、お盆を横に置き、器を直接テーブルに置きました。
さらに、ツユ壺の上に、ツユ入れがかぶせてあるのに、それが分からず、大失敗の因。
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 1026 願望

毎日が、ひもじい思いをし、夢にまで食べ物が出てくる上京当時の出来事。
一度でいいから、腹一杯ご飯を食べてみたい、という願望を叶えるべく、アルバイトのお金が初めて入った時、思いっ切り食べようと心に決め、外食をすることにしました。
子供の頃から、外食の経験がほとんどなく、今日は腹一杯食べられる。自分の稼いだお金で、思いっ切り食べよう、という期待に胸をはずませ、店に入りました。
日曜日の昼時で、ほぼ満席の状況。
何を食べようか?
壁に貼ってあるメニューを、ひと通り往復して見ました。
だいたいのお客は、椅子について注文を考えます。
壁の前をウロウロし、しかも顔色が浅黒く、栄養失調ぎみの飢えた目。
変な男がはいって来た、と他の客が注目しているのは、視線で感じられます。
女子高校生と思われる、女の子二人との相席でした。
店は、母親と、娘なのでしょうか、中学生くらいの女の子が、手伝っておりました。

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 1025 コップ酒

何んとしても、テレビの仕事に就きたい。
この一途な夢は、現在の番組制作技術プロダクション、(株)東通(現、八峯テレビ)に入社し、実現しました。
面接試験時、身元保証人が、本土にいないことを指摘され、保証人ではなく、本人を信用して欲しいと要請。
採用は無理かと思いながらも寒い中、郵便受けの前で待ち続け、採用通知を受けた時の喜びは、天にも昇る思いでした。
そして、辛かった過去を振り返り、いつもはパンの耳をふやかして食べる、食器代わりのコップ酒、ひとりでしみじみ飲み乾しました。
別れの杯を交わした、父の顔が、はっきり浮かんできます。
後戻りは、できない!
前へ、進むしかない!
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