m1320 フリーター


片や、学は、昼間は、掃除、炊事洗濯など、お手伝いに、やってもらえるかもしれないが、夜はひとりでチクチク痛む肝臓をさすり、不安な日々。
寝ても覚めても、頭の中は、札束が飛び交っている。
布団に入って、横に寝るのは猫だ。
夢枕には、金の延べ棒で出来た階段を、一歩一歩上がっているだろう。
一歩一歩、あの世へ近ずいているんだぞ!!
これから先、この男の頭は、正常化するのだろうか。
少子化の影響なのか、親の遺産を当てに、フリーターを誇らしげに自慢する人に出会う。
冒頭に出会った、文京区の青年は、最たるもので、ひかるから見ると、己の人生を無駄にする、許せない輩で、怒り心頭だ。
おい! めん玉ひんむいて、よく見ろ!
土手の川風を涼やかに受け、夫婦が、孫二人と手をとり、心豊かに、優雅に散策している。
対岸には、男がリュックサックに札束を詰め、周りをキョロキョロ警戒しながら歩いている。
後からは、悪しからぬ輩が、なんとかリュックサックの中身を、少しでも掠め取りたいと見え隠れして附いてくる。

m1319 信頼


塩を撒いたはずの男が、今や心から信頼できる婿として、同居する。
安心した親は、都心の一等地と建物を遺言で、女房に譲って、あの世へ旅立っていったのである。
ひかるは常々女房に言っていた。
お金は、生きるための道具にすぎない。
お金は、幸せになるための小道具にすぎない。
金の亡者となり、金の奴隷と化すべきではない。
貧しくても、心豊かに、優雅に、生きられる方法がある。
と言って、つつましく生きてきたのである。
女房も財産が転がり込んだからとて、ブランド品を買いあさるわけではなし、孫たちの成長をいつくしみ、楽しんでいる。
孫はかわいい、ジジ、ババと、マクドナルドへ行くのが、1番の楽しみのようで、ハンバーグをほおばる横顔を見ていると、毎日が楽しい。
一緒に風呂に入り、ジジ、ババの買ってくれたパジャマだ、と言って、ウルトラマンのパジャマを着、ウルトラマンのパンツを着て、フトンへ潜り込んでくる。
スヤスヤ寝息を立てる横顔を見ると、幸せの極地である。

m1318 貧乏王国


貯金が4万円しかない、これからどーやって生活する!
どうせこれからも母子家庭に間違いない。
あなたなどいない方がいい。
出て行け! と怒鳴ったのである。
あなたなど貧乏王国へ行けば、即大統領になれる、すばらしい人だ。
もうこんな生活はイヤだ!
それでもひかるは、コツコツと働きに働き続けた。
子供達にも、祖父母の存在は必要だろうと考え、女房の実家とも丁重に、頭を下げ、和解した。
女房の実家側からすれば、最初に、沖縄という、想像できない所の人間で、まず拒否感が出たのであろう。
それなりに家庭を守り、またテレビ業界での仕事ぶりは、大きな評価を得て、塩を撒き付けたはずの男が、いつの間にか神棚にあげられるような大変な信頼ぶりである。
女房一族のドンが亡くなったときには、献杯の音頭は、あなたしかいないと、音頭を取らされる信頼、急変ぶりである。
もちろんひかるは必死に働き、マイホームを構えていたが、女房の親が年を取り、足元もおぼつなかったので、親の面倒は、子供が見るべし、と嫌がる女房を説得し、同居に踏み切ったのである。

m1317 子孫


投資した金は、半分に減ってしまったのである。
それからというのは、親からもらった財産を半分に減らした分を、なんとか元にもどすんだと、さらにお金に対する執着、そして呪縛は、日を増すにつれ、膨らんでいった。
とうとう60を過ぎても、結婚できなかったのである。
それでもまだ五億くらいの金は背負っていたので、もうお金のことは、諦めろ。老後を楽しくすごそう、と言ったが、全く聞く耳を持たない。
母親もなくなったこれから先、自分が死んだら、この財産、どうなるのだろうかと、不安がっている。
また若い時、金に任せ女遊びをし、酒を飲んで肝臓まで患ってしまい、不安な毎日を過ごしているそうだ。
ちなみに、渋谷で億ションを買って遊び呆けていた、姪ごたち、中山家の人たちは、誰1人として、子供ができなかったそうだ。
金に狂った1族だと言わざるを得ない。
ひかるは、アパートを転々とし、引っ越し貧乏を繰り返していた。
仕事が忙しく、徹夜の連続か午前様で、朝は子供達が目覚める前に、出社する。
子供達が、父親を怖がり、近寄らない状態。
あまりの貧乏さに、ある時女房が怒鳴りつけた。

m1316 決断ができない


数年後、学が35歳になったころ、母親から嫁探し、お見合いの相手を見つけてほしいと頼まれた。
友人のためと思い、あちこちに声をかけ、2度も見合いをさせたが成立しなかった。
相手はなんの非の打ちどころもない。すばらしい女性で、成立しないということはおかしい。
本人を捕まえ、とことん本音を聞いてみるとびっくりした。
女は、自分の背負っている金、財産が目当てだ。
そんな女に子供ができ、子供にまで財産を持っていかれるかと思うと、どうしても決断ができない、という。
お金の亡者、呪縛に縛られた人間の頭の中というのは、そういうものか、と呆れ果ててしまった。
以後、ひかるは2度とお見合いの段取りはしかかったが、周りの友人も、同じ経験をしているから、誰1人として、学に結婚を進める人はもういなくなった。
学はゴルフが好きで、金に任せゴルフ場の会員権を北海道から九州までくまなく買いあさっていた。
先行投資で、いずれ倍、倍になると自慢していた。事実それは、ある程度倍くらいにまでなったようだが、しかしバブルがはじけてしまった。