m1367 ドラム缶の風呂


その内、かすかに笑みが漏れたところは、やはり逢いたかった、嬉しい気持ちの方が恥ずかしい気持ちを、寄り切ったようだ。
実は、明子は昭二のことが好きだった。
夜這いがあったあの日、昭二を受け入れ、ささやかな世帯を持ちたいと思っていた。
昭二が後手に、柱に縛られ泣いている時、なんで父親に自分の気持ちを打ち明けられなかったのだろうか。
何度も、何度も後悔をしてきた。
昨夜もトタンに囲まれた風呂場、ドラム缶の風呂に夜空を眺め、昭二に思いを廻らしていたのである。
そんな昭二が、突然目の前に現れ、動揺するのは当然だ。
昭二はまた、アバラ屋を見た時、もう両親はなく、一人身だろう。
先ほど来、自分を毛嫌いすることなく、受け入れてくれている。
もしかして独身で、ずっと自分を待ち続け、今日まできたのではないか。
そう思うと、土下座をし、地べたへガツンガツンガツンと頭がわれる程叩きつけ、謝りたい気持ちで、明子以上に動顛していた。
沈黙が続いた後、無意識のうちに、初めての言葉が出た。
「結婚はしなかったのか?」
明子は、もう開き直っている。

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