c1012 蛍の光


妹は棒切れを突いて、ピコタン,ピコタン追いかけ、「兄ちゃん、行かないで・・」と泣きじゃくる。
「兄ちゃん、必ず帰るから」と諭し、心を鬼にする。
年老いた両親と、体の不自由な妹を島に残し、旅立つ息子は、親不幸なのだろうか・
10歳の遊び盛りに、足の不自由な妹の遊び相手は、誰がするのだろうか・・
いつまでも、いつまでも、元気に暮らして欲しい・・・
夕陽は周り一面を真っ赤に染め、西の海へ深々と物悲しく沈んでいきます。
なびく髪、風さえも赤く染められ、心に滲み渡る蛍の光。
大海原に落とす夕陽の涙は、今生の別れを惜しんでいるのだろうか・・
無常にも二度目の汽笛は、空と海へ途切れ、鳴り渡るドラの音に、一段と激しく身を揺するエンジン。
溢れる涙に、視界はこぼれ落ちて行きます。
未練の糸なのだろうか、夕日に赤く染まった海面に尾を引く、白い航跡。
橋渡船の父と、本船の少年は、縋る甲斐なく引き離され、大きな人生の別れをするのでした。
この先、妹は兄の帰りを待ち切れなかった。
東京がどんなに厳しい戦場なのかつゆ知らず、松葉杖を突いて着の身着のまま上京。
地を這う生活苦の中、独学にて縫製国家試験特級を取得、東京都の身障者教育に身を捧げる事になる。

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